1.火山噴火と歴史
前回、古代史における気候変動と歴史の関係を考察した。今回は、同時期の火
山活動を確認するとともに、近年の歴史との関係も参考に、改めて考察を試みる。
(1)2 世紀末タウポ火山大噴火による冷夏凶作と倭国乱
ニュージーランドのタウポ火山の噴火は、近年の研究で181±2 年あるいは、
180 年代(南極ドームふじの測定)と推測されており、この噴火の時期は、後漢
時代の光和4~6 年(181~183 年)の異常気象の集中的記録(大旱[ひどい日照り]、
夏の降雹、河の氾濫、大寒波)と一致する。更に前回で述べた、後漢7 年(184 年)
の黄巾の乱や後漢桓帝・霊帝の間(146~189 年)とされる「倭国大乱」、および
新羅本紀193 年の「倭人大飢 来求食者千余人」とも時期が一致するのである。
(2)クラカタウ火山の大噴火と宣化天皇元年の飢饉
『日本書紀』には、宣化天皇元年(536 年)の飢饉の記事がある。これはイン
ドネシアのクラカタウ火山の大噴火(535 年)によるものであろう。この噴火の
規模は後述する。歴史的にはジャワ島西部のカラタン文明の崩壊、メキシコのテ
オティワカン文明の衰退が同時期に起こる。更に、ヨーロッパではゴート戦争
(535 年-554 年)、スラブ人の南下(542 年)、黒死病(ペスト、543 年)の蔓
延、ゲルマン人の南下などが起きた。むろん、どこまでが火山の影響とするかは
異論が多いと考えるが、現在の産業活動(政治的活動も含めて)による自然破壊
が考えにくい古代には純粋に自然原因由来の動乱が多かったのではないかと思う。
(3)その他の近年の歴史的事実
『歴史を変えた火山噴火』(2012 年刊、石弘之著)から以下引用する。歴史上最
大規模の1815 年インドネシアのタンボラ火山噴火により、世界的な低温現象が
生じ、1816 年は北半球で夏に雪が降った『夏のない年』(year without summer)
として記録された。1783 年には、アイスランドのラキ火山で巨大な噴火が起きた
あと、世界の農業に深刻な被害を生じ、食糧不足がフランス革命(1789 年)の誘
引となったとの見解がある。さらに、この噴火は日本史の飢饉のなかで、最も深
刻な事態を招いた天明の飢饉(1782 年~1788 年)の時期とも重なっている。
この件は、2020 年6 月8 日付け『エコノミストOnline』の記事で、著名な火
山学者である鎌田浩毅京大大学院教授が、『「温暖化」を超えるインパクト 寒冷
化を引き起こす大噴火』として、同様に説明している。「地球温暖化が世界中の喫
緊の課題となっているが、地球上ではそれをはるかに上回る寒冷化現象がときど
き起こる。歴史を振り返ると、大規模な火山噴火が気温低下を引き起こし、地球
温暖化に一定のブレーキをかけた事例がある。1783 年6 月、アイスランドのラ
カギガル(アイスランド語、英語ではラキ)火山で割れ目噴火が起こり、世界的
な寒冷化をもたらした。火山灰と二酸化硫黄などの有毒な火山ガスが、長期にわ
たって放出されアイスランド国内にいた4分の3の家畜が死に、当時の人口5万
人のうち、1万人が作物の不作により餓死したとされる云々」とし、『天明の大飢
饉』もラカギガル火山の噴火が原因とする。まさしく我が意を得たりの論説であ
る。記事の図説は、引用の許可を得ていないため掲載できないが、図は前回の図
(気象庁『気候変動』気候システムの概要)と殆ど同じであり、以下に再録する。
2.縄文時代の噴火(鬼界カルデラ)と火山爆発指数
(1)鬼界カルデラ噴火
今から約7300 年前、九州本島南端の沖合で『鬼界カルデラ噴火』 と呼ばれる
巨大噴火が起きた。前回、この噴火の縄文人の記憶が、天照大神と弟素戔嗚尊の
物語に投影されているという説を紹介したが、この説は証明のしようがない。
ただ、鬼界カルデラ噴火がどれだけの衝撃であったかは分かる。過去1 万年の内
では、世界最大規模の噴火であり、九州南部の縄文文化を壊滅させた。 火山灰に
覆われた面積は約200 万km2、火山灰は偏西風にのって東北地方まで到達した。
この規模や今まで述べてきた大噴火を数字で表すとどうなるかは以降説明する。
(2)火山爆発指数(VEI)
火山噴火の規模を示す指標にNewhall and Self (1982)により提案された『火山
爆発指数(VEI=Volcanic Explosivity Index)』がある。『VEI』は噴出物量・噴煙
柱高さ・噴火タイプ・噴火継続時間などから噴火の大きさを推定する半定量的尺
度であり、世界中の活火山の記録であるスミソニアンカタログ(Siskin ら,1981)
でも採用されている。噴出物体積の目安で考えるとVEI=0 は1×104m3 までVEI
=8 は1×1012m3 以上の噴火のことを示す。なお、爆発的な活動をしないハワイ
式噴火は,いかに大規模でもVEI=0 となる。次図にその関係を示す。
先に述べた三国志時代のタウポ火山や1815 年の『夏のない年』タンボラ火山
のVEI は7 であり、535 年のクラカタウ火山やの1783 年のラカギガル火山噴火
はVEI6という。また鬼界カルデラの破滅的噴火はVEI7~8 と想定されている。
(3)『火山噴火カタログ』(1999 年)
日本史的には、縄文時代の噴火のことは難しく、2千年前程度からしか、まと
もに検討し難い。下表は『過去2000 年間の日本の火山噴火カタログ』(1999 年、
地学雑誌Journal of Geography 早川由紀夫)から引用した。
下表:左表の下線は富士山、伊豆大島を指す。右表の赤枠は史書に記述あり。
西暦年 火山名 マグニチュード 西暦年 和暦 火山名 マグニチュード
明らかに、富士山の噴火の頻度が伊豆大島も含めば圧倒的に多い。しかし、古
事記、日本書紀にはなぜか、これらの富士山の噴火どころか富士を指す名前さえ
一切無い。これは、本論の気候変動とはあまり関係がないが、古代史上の謎と考
える。ある時期まで日本歴史上の政権は富士山に関心を示していないが、それま
では恐らく富士山から遠い距離に位置していたのではないだろうか。
この表中の『マグニチュードMagnitude』とは、地震の強度ではなく火山爆発
の大きさを示す指標であり、噴出したマグマの総重量を用いて噴火の規模を表現
するとして、早川由紀夫(1993)により提案され、噴火マグニチュード(M)は
次式で表される。噴火M=log10(噴出マグマ質量kg)-7
(4) 『火山爆発指数VEI』と『マグニチュードM』の関係
『VEI』は爆発的噴火の定性的な記載から求められるものなので、溶岩だけを
流出するような噴火の規模を示すことができない。これに対し、『噴火M』はマ
グマを噴出したどのような噴火の規模も表現できるという点が優れている。他方、
『VEI』は基本的には噴出物の体積に基づくが、地質学的に十分な体積見積りが
ない場合でも、噴煙高度、噴火タイプなどの情報を参考にしてその規模が得られ
る。そのため噴火の規模や頻度の相対的な比較には便利な指標である。
なお、爆発的噴火だけを比べると 『VEI』 と『噴火M 』はほぼ似た値(規模)
を与える。(下図参照:Crosweller 他, 2012)。そもそも早川は、M の指標(整数部
分)を VEI に近づけるよう配慮し、上記の式中で7 を引いていて早川の例題では
VEI 5 相当のマグマの噴出量1 km3 を2×1012 kg としてM は5.3 となっている。
ちなみに、1990~1995 年間の雲仙普賢岳は産総研の『火山別噴火履歴表示』
ではVEI 3、噴火M4.8 となっている。試みに噴出物体積として島原市公表の2.9
億m3(0.29km3、重量換算値5.8×1011kg)を適用すると確かにM は4.8 となる。
一方、VEI には文献上は4 もある。0.29km3 は定義の1km3≧VEI4>0.1km3 か
らは4 であるので、噴火M とVEI はおおよそ一致する。
(5)トンガの大規模な火山噴火の威力について
2022 年1 月のトンガ火山の噴火は直径約650km もの噴煙を発生させ、その威
力はNASA によれば広島型原爆の500 倍以上の1000 万TNT トンというが、検
証する。1000 万TNT は熱量換算10×1015 カロリーとなる。一方 『VEI』は5
~6 と想定されて、仮に5 とすると前項(4)通り2×1012 kg。火山学では1kg のマ
グマあたりの熱量は約100 万ジュールとされているので、2×1012 kg×106J/
4.184J/cal=4.8×1017 カロリーとなり、まったく合わない。しかし二酸化硫黄の
噴出測定量が同規模噴火の1991 年ピナツボ火山の1/50 程度であるので、仮に、
固形物全量も1/50 とすれば9.6×1015 カロリーとほぼ一致する。 以上
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